「ちょっと、またこんなに食い込んで……」
直美はバスルームの鏡の前で、ピンクのレースのパンティーを履き直しながら小さくため息をついた。
──もう、朝からこんなに悩まされるなんて。
仕事に行く前の慌ただしい時間。ストッキングを履く前に、鏡で後ろ姿を確認した瞬間、彼女は思わず眉をひそめた。
ヒップラインに沿って、柔らかい肉がレースの縁からわずかに食み出している。ピタリとフィットするはずのパンティーが、まるで彼女の身体にいたずらするように、布の収まりを拒んでいるかのようだった。
「これ、昨日までは普通に履けてたのに……」
呟きながら、両手でパンティーのサイドを引っ張り、ヒップにフィットさせようとする。けれど、布は弾力のあるお尻に引っ張られ、すぐにまた元の位置に戻ってしまう。
──まるで、私の身体がこのパンティーを拒んでるみたい。
そう思うと、じんわりと胸の奥が熱くなった。
このパンティーは、先週、恋人の翔太に買ってもらったものだった。
「直美には、こういうのが似合うと思うんだ」
彼の指先がレースの端をなぞったときの、くすぐったい感覚が蘇る。普段はシンプルなものばかり選んでいた彼女には、少し可愛すぎるデザインだったけれど、「似合うよ」と囁かれると、つい頷いてしまった。
──あの夜、翔太はこのパンティーを、すごく気に入っていたっけ……。
思い出した途端、ふいに身体の奥が熱を帯びた。
彼がゆっくりと指を這わせた感触。レースの隙間から伝わる、彼の熱い吐息。柔らかい生地越しに伝わる、じれったいほどの優しい愛撫。
直美は、無意識のうちにパンティーのウエスト部分をきゅっと握りしめていた。
──こんなの、ダメ……。
慌てて頭を振り、ストッキングを履こうとする。けれど、ふくらはぎを通った薄い布が太ももまで上がる頃には、またしてもお尻が落ち着かずに、くいっとパンティーが食い込んでしまう。
「……もうっ、どうしてこんなに意地悪なの?」
まるで、翔太のいたずらみたい。
彼女はため息をつきながら、もう一度鏡の前でヒップラインを直す。けれど、いくら直しても、レースは柔らかい肌の上で、いたずらっぽく食い込んでくる。
──まるで、翔太が私のことを思い出しているみたいに。
胸の奥が、またじんわりと熱くなる。
「……もう、仕方ないわね」
苦笑しながらも、直美はほんの少しだけ、鏡の中の自分を見つめた。
そこには、頬をうっすらと紅潮させた、艶やかな女の姿が映っていた。
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