午後の喫茶店はいつものように穏やかな時間が流れていた。窓際の席にいた彼女がゆっくりと脚を組み替えるのが目に入った瞬間、まるで空気が変わったように感じた。
その日、彼女は黒のタイトなミニスカートを身にまとっていた。決して派手な服装ではない。しかし、その吸い付くようなラインが彼女の体つきをこれ以上ないほど見事に際立たせている。胸の奥に小さなざわめきが生じた。
「隣、いいかしら?」と微笑んで言う彼女の声は低く、そして少しだけ甘い。俺は思わず頷きながらも、目のやり場に困っていた。彼女の仕草ひとつひとつが挑発的というわけではない。ただ、自然な瞬間にふと見える太腿の肌や、スカートの端を無意識に直す手の動きが、まるでこちらを試しているかのように見えたのだ。
「こういうスカートを履くとね、人の視線が嫌でも分かるものなのよ。」そう言って彼女はスプーンでコーヒーを軽くかき混ぜた。言葉とは裏腹に、その表情には余裕と楽しさが見え隠れしている。俺は言葉を失ったまま、彼女の話の先を待つしかなかった。
「でも不思議でしょ?嫌だと思う以上に、その視線に期待してる自分がいるの。」彼女がそう言いながらこちらを見つめた瞬間、胸の奥でくすぶっていた何かが一気に燃え上がるのを感じた。しかし、その炎を口に出すわけにはいかなかった。
「君はその視線を楽しんでる、そう聞こえるけど。」自分でも驚くほど冷静な声が口をついて出た。だが内心では彼女に惹かれている自分が恐ろしく、そして抑えきれない欲望に動揺していた。
彼女がふっと笑う。目尻に少しだけ刻まれた笑い皺が、安心感と同時に、彼女の人生の豊かさを物語っている。「ええ、そうかもね。でもそれはね、ただの視線じゃないの。どんな風に見られているかが分かるから楽しいのよ。」言葉の裏には鋭さがあり、まるでこちらの心を見透かしているようだった。
その後も彼女の話は続いたが、俺自身はほとんど聞いていなかった。意識は彼女の手元やスカートの裾、そしてその奥にある存在感に囚われていた。自分が何を考え、どんな感情に支配されているのかすらよく分からない。ただ、彼女に惹きつけられている。その事実だけが頭の中を支配していた。
ふと、彼女が時計を見て立ち上がった。「また今度、ゆっくりお話ししましょう。それじゃあ。」そんな言葉を残して店を後にした彼女の背中は、美しくも儚い光彼女の背中が見えなくなるまで、俺はその場から動けなかった。
胸の奥には未練と焦燥が渦巻き、何かを掴み損ねたような感覚が残る。それでも、彼女の言葉と思わせぶりな仕草は、俺の頭の中で鮮明に蘇り続けていた。まるで彼女が残した香りまでもが俺を責め立てているようだった。
帰り道、ふと足元に目を落としながら、ため息ひとつ吐く。彼女の「また今度」という言葉が、本気でまた会える約束なのか、それともただの社交辞令なのか、判断がつかなかった。だが、あの艶やかな表情と意味深な瞳は、紛れもなく俺の心を弄んでいたことだけは確かだ。
次に彼女に会ったとき、俺は正気を保てるのだろうか。それとも、今日抑え込んだはずの衝動が、再び俺の中で暴れだすのか。その答えを知るのが怖いようで、同時にそれを待ち望んでいる自分がいる。
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